2-1.お蕎麦と日本酒
 「のまぬくらいなら、蕎麦やへははいらぬ」1)
小説家の池波正太郎さんはその著書のなかでこんなことを述べておられます。

 いやはや、なんとも私にとっては心強い言葉ではないか、といつも池波さんのこの本を読み返すたびに思うのは、私だけでしょうか。

 池波さんには負けるかもしれないが、私も蕎麦やに入るとついつい、お酒それも日本酒を注文してしまいます。(もちろん、酔っても良い時だけだが・・・)

 初めて、蕎麦やにてお酒、それもひとりで日本酒を注文したのは、大学を卒業したころだったと思います。それまで蕎麦やで、それも一人きりのときに日本酒を注文することはありませんでした。なんだか、それまで蕎麦やで酒を飲むなんて恥ずかしくてできなかったのです。その恥ずかしさがどこから来たものだったか未だにわからないが。

 その初めて蕎麦やで酒を注文した時、それもまだ陽が落ちる前から飲んだ時は、初めなんだか悪いことしているような気がしていたが、反面で妙に楽しかった、というよりも何だか妙に落ち着けたという記憶があります。

 これをきっかけとして、蕎麦やにはいると必ず蕎麦と一緒に、日本酒それとその店おすすめのつまみを一品だしてもらうようになりました。蕎麦を食べる前に、軽く日本酒を飲むといった行為は、普段、居酒屋やその他の店で酒を飲む時とはちがった心持にしてくれます。

 ぜひ皆さんも、蕎麦やで日本酒が入った杯をかたむけてみてください。

 そんな時は、「名古屋」はお薦めです。

 まず店の雰囲気。昔の、いや田舎の家を思い出させてくれて、自分の家のような心持にさせてくれます。
 
 そして蕎麦の味。独特の風味をもった蕎麦が味わえること。

 そして最後は美味い日本酒が揃っている。とくに私の田舎の地酒が名古屋にはそろっているのです。この酒はとにかく「美味い」の一言につきます。

 この3つが「名古屋」では味わえる。大げさに言ってしまえば、それだけで幸せな心持になる。

 どうです、蕎麦やで飲む日本酒を試してみませんか。

 ただ、ひとつだけ気をつけてください。それは、日本酒は程ほどにすること。飲みすぎてはいけません。

お酒が過ぎたら、せっかくの蕎麦の味がわからなくなってしまいます。

1)池波正太郎『散歩のとき何か食べたくなって』新潮社、68頁。


参考文献
池波正太郎『散歩のとき何か食べたくなって』新潮社、昭和56年10月。