二宮町のゴミ焼却施設「桜美園」

大橋代表によると、桜美園の焼却場と最終処分場から飛んでくる灰の中には、鉛・銅などの重金属類やダイオキシンが相当に含まれている、という。環境総合研究所に分析を依頼した結果、「重金属の測定値は異常な高さを示した」ともいっている。

 桜美園の裏は山状になっている。このため、東〜南風が吹けば、煙突から出る煙が山から下る″ダウンウォッシュ″現象が起きる。住宅地に煙が沈むように落ちてくるのだ。緑が丘地区は盆地状になっているため、なおさらその現象が起きやすい、と大橋代表はいう。

 飛灰は煙突からだけではない。焼却炉の真下にある最終処分場の灰も、風によって飛ばされている、というのが大橋代表の主張だ。最終処分場の灰は、焼却場で燃えた灰で、年間の処理量は11年度で1,500立方b。ゴミが増えるのと比例して増え続けている。

 大橋氏の主張に対し二宮町は、「煙突から出ているのは水蒸気、煙ではない。(最終処分場の灰も)国の基準値以内だから、何も問題はない」と、改善要求を退け、何ら抜本策がとられてこなかった経緯がある。

 しかし、県はすでに同町に対し焼却施設の改善をすすめる「指示文書」を出している。法的な規制はないが、不備なところを改善するようを強く求めている。  昨年、高濃度のダイオキシンを流出させた荏原製作所藤沢工場の二の舞を踏まぬよう、県が一斉に立ち入り検査をしたときに、不備が認められた。

 県担当者は「煤じんはダイオキシンを多く含んでいる。施設の周りに飛散させないようにしてもらうことと、燃焼中の温度は800℃以上。焼却炉の運転を開始したら、焼却の温度を速やかに上げる。運転をやめるときは高温を保ってゴミを燃焼し尽くす。温度が800℃以下の低い温度だとダイオキシンが発生する」ことから改善の指示を出したという。

 これに対し、町は予算措置をしなければならないものもあるため、専門家の意見を聞いて改造していく、といった趣旨の回答を県に提出している。

 大橋代表は「『(町は)バーナーの位置を変更し、能力を上げて何とかしたいやりたい』と言っているが、全然分かってない。ゴミを燃焼するときの温度を800℃以上保つためには炉を24時間型にしないと保てないのにバーナーの位置だけを変えてなんとかしようとしている。町は『最終処分場の覆土もやりたくない』と言っている。われわれは一刻も早く、灰が住宅地に飛ばないようにしてもらいたいのに、何もしようとはしない。住民の痛みをまったく理解していない」と怒りをぶつける。

 二宮町はこれに対し、「(最終処分場の灰は)土に代わる繊維質のものを灰にかぶせる段取りをしているところだ。灰をリサイクルするため、繊維質なものでないと熱で溶融しない。土だと燃やすのは非常に難しい」と述べ、覆土対策はしないことを明言した。リサイクルについては年度内の実施を予定し、「4月にズレ込むようなことはない」と言っている。煙突の高さをさらに高くしてほしいという住民側の要求は、「焼却施設本体と抱き合わせで考える」とし、本体施設と切り離しての建て替えは考えていないことも明言した。

 桜美園の焼却炉と最終処分場は、緑が丘住宅地からは目と鼻の先。住宅地からは焼却施設から排出される煙が目に見えて分かる。焼却施設、最終処分場と住宅地が間近に迫るのは全国でも珍しいという。また、現在の焼却炉は大島など離島でしか使用されていない小さなもので国からも不備の指摘がされている旧式なものだ。

 昭和56年に1〜3号炉が完成し、当時は富士見が丘にあり、黒煙を上げていたという。その後、現在の中里に移転し、最終処分場も整備された。しかし、国によるダイオキシンの規制が強化され、4号炉新設の後に1〜3号炉内にバグフィルターが付けられるなどの改修が行われ、いまに至る。

 しかし、この炉は平成11年に国が定めた「ダイオキシン類対策特別措置法」で14年12月まで改造しなければならない。だが、町は予算措置ができず改造は難しくなっている。ほとんどの自治体は改造に向けての作業をしているが、同町はいまだ検討段階で、具体的な改造作業ができないでいる。

 県によると、14年12月までに改造できなければ、「廃止される」。ただ、猶予期間が置かれ、その中で改善しなくてはならないという重大な問題もはらんでいるのだ。

 飛灰問題が生じたのは、入居が始まった平成五年ごろからだ。緑が丘は、区画整理事業として始まり、第一生命など地権者らによって造成計画が進められた。約35万平方b、全750区画の住宅が建てられた。二宮サンヒルズともいわれ、高級住宅が次々と建っていった。しかし、購入者のほとんどは、すぐ近くに焼却炉があるのを知らず、家を購入している。販売当初のチラシを見ても、焼却場の位置は示しておらず、「湘南・緑が丘」の邸宅地を強烈にアピール。

 二宮町は住宅地が完成する前の平成3年度に、最終処分場と4号炉新設の環境アセスを実施している。環境アセスは住民の合意が必要とするが、同町は住民らが入居する前に環境アセスを実施している。

 県では焼却施設の規模が小さいため条例に基づく環境アセスの必要性はない、としているが、住民らの合意は不可欠だ。にもかかわらず二宮町は住民不在のまま環境アセスを進め、機械化バッチ炉式、煙突の高さ90bとし、県と厚生省にアセスを提出している。しかし、導入された炉は当初の計画炉でなく、固定炉床の炉式。煙突も20bの高さしかなかった。住民の証言によると、煙突の高さ90bは、市街地から測ったもので煙突の実寸でない、という。

 この問題に詳しい住民は「煙突を高くすると、(緑が丘の)住宅が売れない。そのために20bの高さにした」。景観をよくするために、4本ある煙突は施設内に隠された状態にあり、煙突らしきものは見えない。

 住民に飛灰の被害について聞いたところ、ほとんどの人が飛灰については知っており、「不安」を訴えた。

 焼却場のすぐ近くに住むの主婦は「町からは焼却炉を広域化するという話を聞いていますが、いつごろになるのでしょうか。ダイオキシンが出ているような話も聞いていますので、とにかく煙突を高くしてほしい。それに町はもっと情報をわたしたちに流してほしい。町に何とかしてほしい、と訴えても全然ラチがあかないし、どうしていいか分かりません。不安です」

 別の主婦は「灰が積もるということはないですが、時々、煙臭いときがあり、外にいられないときがあります」。平成4年に入居した主婦は「風向きによっては、洗濯物にホコリが付きますし、臭いもします。2〜3年前は網戸に白いものが付着していました。これから育っていく子どものためにも窓は開けられません」

 また別の主婦は「毎日、煙を見るたびに、不安にかられます。少量でも毎日吸っていると、その蓄積が怖いです。神経質になっています。子どもたちのためにも町は対策してほしいし、研究してもらいたい」と訴える。

 平成5年に入居した主婦は「朝方に煙が下に沈んできます。だから夏でも朝と夜は窓は開けません」家購入時も焼却場の存在は知らず、地区の民生員から聞いて初めて知った、という。

 また、別の主婦は「昨年おととしから、ゴミは分別して出すようになったが、入居した当時は、ビニールだろうが何だろうが一緒でした。ゴミは出さないよう努力しているが、ゴミを出す人はきちっと考えて出してもらいたい」と訴える。この主婦も焼却場のことは知らず、販売された時点でも、業者からの説明はなかったという。

 焼却場から少し離れた地域に住む主婦は「ダイオキシン問題が、この地区で起こっているというのは入居してしばらくして知りました。わたしの家は焼却場と離れていますが、時にはツーンと、臭いが鼻につきます。わたしの家は牛舎からの臭いや高校の運動場の砂ほこりで、窓が開けられず、窒息状態で生活しています。緑が丘は『異臭が丘じゃないか』という人がおり、手みやげ話にされています」

昨年5月、町に改善を求める住民らが、地区の住民らにアンケートを取ったところ、ほとんどの人が「目がかゆい」、「目が痛い」、「咳、たんがでる」、「のどが痛い」、「頭痛がする」、「めまい」、「吐き気がする」、「喘息になった」「アトピーになった」―など枚挙にいとまがないほどの健康被害を訴えており、中には極度の化学過敏症になった女性もいる。

 桜美園問題のこれまで経緯や、これからについてどう主張していくのか、「桜美園問題を考える会」の大橋義弘代表と桜美園の茅沼義文所長の2人にインタビューした。

 ――これまでの経緯をお話してください。

 大橋 「家を建てたとき、桜美園がゴミ処分場ということが分かって、土地を購入する前、役場に出向いて、ゴミ焼却場が間近にあるが、環境への影響はないのか、と問いただすと、『煙突から出ているの水蒸気、煙ではない』と言われた。『改造したばかりなので、非常に優秀です』という答えが返ってきた。わたしだけじゃなくて、緑が丘で住宅を購入する人全員に、こんな言い方をしていたようだ」

 ――灰が飛んでくるのを最初、気づかれたのは。

 大橋 「家を新築したとき。一番気になったのはシックハウスだった。化学物質が家の中に発生するのがイヤだったから、24時間換気型のエアフィルターを天井に付けた。しかし、吸気口のエアフィルターが、なぜかすぐに黒くなる。フィルターは1年持たず、1カ月で真っ黒になり、音も大きくなった。業者に調べてもらったら、何が詰まっているという。さらに業者に調べてもらったら、重金属が出てきた」

 ――自宅のカーポートーに灰が薄っすらと積もったのですか。

 大橋 「昨年12月には灰の飛散でカーポートの屋根が真っ白になったこともある。このような現象が起きるには、緑が丘ばかりでなく、富士見が丘の団地あたりも真っ白になっていたこともある。今年の冬は北風が強く、南側のほうへ灰がかなり飛散しているようだ。風向きによっては、富士見が丘も危ないし、中里も危ない。要は桜美園を中心として、半径1`ぐらいのところは全部危ない。窓を開けずに注意していれば、ある程度は大丈夫と思うが、この事実を知らないで生活をしている人たちは、非常に危険だと思う。ガンが発生する要因にもなりかねないからだ」

 ――最終処分場から灰が飛んでくる、というのは。

 大橋 「風によって灰が舞い上がり住宅地に飛散してくる。要は灰が飛散しないよう灰の上に土を盛る、という覆土を町がしていないからだ。灰を野ざらしにしている。普通だったら、灰が飛散しないよう対策を取らなければならないのに、町は覆土しなくてもいいと言っている」

――灰の中にはダイオキシンは含まれているのか。

 「環境総合研究所と二宮町が独自に実施した調査結果によると、最終処分場は740、第四公園は910、最終処分場より公園の土壌のほうがダイオキシンの値が高くなっている。最終処分場と家のベランダに飛んできた灰は、CО―PCBの濃度単体で比較すれば、ベランダのホコリのほうが集じん灰は二倍だ。ダイオキシンなどの毒物は、焼却場の中できっちりと処理してもらいたいが、これが全部住宅地に飛んできている。なぜ飛ぶかというと、桜美園の燃やし方に原因があるからだ」

 ――国の基準値はオーバーしているのか。

 「最終処分場の基準値はいくつにしなさい、といった細かい基準はない。諸外国に比べ日本の基準は非常に甘い。外国だと住宅地、工業団地は環境基準があるが、日本では基準はない。最終処分場の基準は1ナノcという基準がある。町に改善の申し入れをすると、『1ナノcТQの基準だから、何が問題があるのか』と言われる。われわれが言っていることは、そういうことではなく、灰を飛ばすのは法律違反。また、町は炉式を機械化バッチ方式で国に届け出しているが、実際には固定炉床式になっている。虚偽の申請ではないのか」

 ――住民の方がガンで亡くなられたり、犬が白血病で死んだという噂もあるが。

 大橋 「緑が丘の犬はお腹を壊しやすいと獣医にかかると言います。ガンになって亡くなった人もいます。子どもの知り合いが秦野から引っ越して来て、ウサギを外で飼っていてら死んだ。『中に入れなかったから死んじゃったの』と子どもは言っている」

 ――二宮町が煙突を高くしなかった理由は。

 大橋 「緑が丘の住宅が売れなくなるだろう、という心配があったからだ。つまり美観を損ねる。しかし、これが余計、問題を大きくしてしまった。少なくともいまよりも高い煙突さえあれば、こういうことにはならなかった。アセスは90bで申請しているが、現実には20bの煙突になっている。風が吹くと、煙が下向きに流れるダウンウォッシュ現象が起こる。煙はどの方向にも全部下りていく。この煙を拡散させるには、煙突の高さは相当に高くしなければならない。二宮町は毒性の高いものを中で封じ込めることができず、全部住宅地にばら撒いている。この問題は緑が丘だけの問題ではない。二宮町全体の問題だといえる」

 ――最終処分場の灰は何にリサイクルするのか。

 茅沼 「灰を他県に持って行って、路盤材のようなものに利用していこうと思っている。そのときに土がたくさん混じっていると、具合が悪い」

 ――リサイクルするために覆土しないということか。

 茅沼 「(最終処分場の)一部に青いシートをかけている。少なくともその部分からは灰の飛散はない。雨の日は別だが、毎日、灰に水をかけて湿らせている。湿らせることで、飛散が減る、というような方法を取っている。取り付けたスプリンクラー3本で灰を湿らせている」

 ――炉での焼却温度は、初めから800℃以上で燃やしているのか。

 茅沼 「それがなかなか時間がかかる。町は何とかしようと思っているが、現段階では、なるべく早くすべきであろう、と考えている」

 ――800℃以上、燃焼が安定するまでにどのぐらいの時間がかかるのか。  茅沼 「その日によって違うので、なんとも言えないが、5時間あれば十分だと思う」

 ――ゴミを燃やす時間は何時からか。

 茅沼 「9時半ごろから。午後の2時半ごろには、その日の最終のゴミがカマに入る」

 ――その間、800℃まで達する時間は、ほとんどない。

 茅沼 「そうじゃなくて、9時半にゴミを入れる前には、バーナーで炉を温めている。炉の内には温度管理をしている再燃焼室というのがある。ここで850℃になったら、ゴミを入れる。つまり再燃焼室で温度が850℃になったときに、その日初めてのゴミを固定炉の中に入れる。しかし、そのときに固定炉の温度が800℃あるのかというと、疑問がある」

 ――炉の形式を固定式からストーカー方式に改造できないのか。

 茅沼 「やろうという考えはある。いま改造計画を立ち上げている。ストーカー方式は床が揺れ、ゴミも揺れる。表面で燃えたゴミは灰だから、はがれ落ちる。そうすると中の生の部分のゴミが出てくるから、中までよく燃える。しかし、この方式にすると相当な費用がかかると予測している。しかし、町長以下、これに改造しようという決断は出ている。だから町は何もしていないというこではない。何とかしなければいかんということで動きだしている」

 ――その炉に改造されるまではどのくらいの日数がかかるのか。  茅沼 「国は市町村の区域を越えて焼却炉を広域化しなさい、と言っている。平塚、秦野、伊勢原、大磯、二宮を一つのブロックとして、実施したらどうかという考えが示されている。19年度までに合意形成をしなさい、という。19年度で合意形成ができれば、用地を求め、施設を造るが、早くて3〜4年はかかる。だから平成22〜33年ぐらいが目安となる」

 ――町が問題解決するには、焼却施設を広域化にするしか方法はないのか。  茅沼 「国の方針で、これからの焼却施設は1日100d以下の処理能力のものは造ってはいけないという方針がある。二宮町に100d以上の焼却施設を造って、どうするのか。いまは1日22dのゴミしか処理していないのに、その二二dのゴミを5日間溜めて1日で燃せ、とでもいうのか」

 ――いま起きている問題を早急に解決するには住民の言う煙突を高くすればいいことなのに、それができないの理由は。

 茅沼 「いま焼却施設本体をストーカー方式にしたいという考えが町としてもあるので、焼却施設の本体と抱き合わせで煙突のことを考えていきたい。どういう焼却炉の形に改造するのか決定もしていないのに、煙突の高さを単独で決めて造るというのはできない。焼却炉と煙突は深い関連性があるので、本体が決まらないと煙突は決めようがない」

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