外来種の動物や魚で生態系が変化
タイワンリスやアライグマなど外来種の動物や魚が分布を広げ、生態系が変わりつつある。
鎌倉、藤沢に集中していたタイワンリスはすでに茅ケ崎に侵入し、数を増やしている。茅ケ崎で動植物の観察を続ける民間団体、「文化資料館と活動する会」(代表・岩本和代氏)は「平塚にも侵入してくる恐れがある」と警告する。
アライグマはまだ数こそ少ないが、体内に保持した寄生虫が人の脳神経を侵す病気を発症するといわれ、米国では数人の死亡例がある。鎌倉では昨年度、130頭のアライグマが捕獲され、先月には茅ケ崎でもアライグマが発見されている。相模川の寒川取水堰の静流域には、ブラックバスが生息しているといわれ、大磯の磯の池、秦野の震生湖にもブラックバスが釣り人よって目撃されている。北米産のブルーギルの幼魚が茅ケ崎の小出川で相次いで発見され、地域の生態系は外来種によって破壊されようとしている。
タイワンリスが茅ケ崎で発見されたのは、いまから4年前のことだ。菱沼海岸の砂防林を移動しているところを住民によって初めて目撃された。現在は相模川河川敷や南部の東中海岸、南湖、中央部の萩園、高田、北部の赤羽根、下寺尾、堤などほぼ全域に分布が広がっている。
いまのところ林業や農業被害は少ないが、民家の庭木をかじったり、洗濯物を汚すなどの生活被害が出ている。繁殖力が強いため増殖していけば鎌倉、藤沢と同じように林業被害は出る、と活動する会は警告する。
鎌倉山と陸つづきになっている藤沢・川名の森林公園の木々は樹皮をかじられ、白樺のような裸の状態になっている。片瀬地区の被害はとくに深刻で、手に負えない状況だ。野鳥の卵を食べたりしているので、野鳥の数も減少傾向にある。
鎌倉では農業被害がすでに出ておりミカン、カキなどの果物を食い荒らしている。天井裏の電気配線をかじるため漏電して火事になる恐れがある、と住民から懸念の声は多い。「お金をかけて手入れしてきた庭木がかじられ、枯れた」と市民からの苦情も相次いでおり、「もうガマンの限界を超えている」と市担当者は話す。
鎌倉市内には現在2〜3万匹いるといわれ、ここ2〜3年でさらに増え続けている。人畜感染症の疑いもあるため、市では「エサを与えないよう」観光に訪れた人やエサを売る店などに指導しているが、徹底されていない。「見た目に可愛いので子どもたちがエサを与え、指をかじられる被害が出ている」と市担当者。
同市では昨年4月から駆除するためのネズミ取り機を市民に無料で貸し出している。捕獲したリスはリス園に引き取ってもらったり、学術用の研究材料として生かされているが、安楽死させる人もいるとか。
分布は東西へと広がっており、東は横浜南部や三浦半島の先端まで生息する。藤沢では行くはずのない大庭地域で確認されている。
西へは相模川が防御の役目をしているため茅ケ崎で分布が止まっているが、活動する会のメンバー、岸一弘氏(茅ケ崎市職員)は「相模川を渡って西側に入る恐れがある。そうなったら、在来の日本リスと競合するだろう。日本リスはタイワンリスより体が小さいので生存競争に負ける。何とか茅ケ崎で食い止めたい」と事態の深刻さを訴える。
タイワンリスは元々、鎌倉と藤沢の一部地域に多く集中し、その域から外には出て行かなかった。安定もしていた。しかし突如、外へと行動範囲を広げたのだ。同氏は「タイワンリスの生態に変化が起きたとしか考えられない」と生態系の変化を懸念する。
茅ケ崎での分布状況が「いままでの学問的な常識をくつがえしている」ともいい、「駅前とか、樹林地のない、いわゆる都市の中にもどんどん侵入してきている」と行動の変化も指摘する。
「タイワンリスは植物、果物、何でも食べる雑食性動物。とくにこの食べ物がなければいけないというものがないので、潜在的に適応力がある。増えて都市に住むようになれば、カラスのようにゴミを漁るようになるかもしれない」(同氏)
タイワンリスは台湾南部原産のリスで、動物園や公園の飼育動物として日本に輸入された。伊豆大島に自然公園を作った際に数匹のタイワンリスを輸入したのが最初だ。その後、江ノ島に植物園が作られ、タイワンリスを輸入したが、昭和27年の台風で施設が壊れて逃げたリスが藤沢南部や鎌倉市一帯に野生化したといわれる。
近年、江ノ島のタイワンリスは、野良ネコが増大しているため、その数を激減させている。だが、繁殖力が強いため他地区では激増し、分布図を塗り替えている。 ※ 北米産のアライグマの数が地域で激増している。生活被害も広がっている。タイワンリス同様、数も増加の一途だ。ペットとして飼われていたが、飼いきれなくなって捨てたのが繁殖の始まりだ。
鎌倉市内で最初に見つかったのが10年前。すでに600頭ほどのアライグマが生息しているといわれる。昨年度1年間で130頭が捕獲されたが、「市民からの苦情は絶えない」(市担当者)。藤沢でも昨年、被害を受けた住民から約30件の苦情があったという。
アライグマは1回の出産で平均5頭の子どもを産み、鎌倉、藤沢を中心に分布が東西に広がっている。三浦半島ではスイカに被害が出ており、深刻さを増している。人畜に感染する寄生虫を体内に保持しているといわれ、人に感染した場合、脳神経が侵され死に至るという危険性もはらんでいる。フンの中にジステンパーとよく似た病菌を持つ寄生虫の卵が混ざり、その卵が人の体内に入ると、ふ化して幼虫になる。幼虫は脳のほうに移行し、脳神経を侵して死に至らせる。米国では数人の死亡例が出ている。 このため、自治体はタイワンリスよりアライグマのほうを危険視しており、捕獲したアライグマは県自然保護センター(厚木市)に送って安楽死させたり、研究用の検体にされている。 昨年、鎌倉、藤沢、寒川、小田原などで捕獲された67頭のアライグマが同センターに送られ、今年はすでに20頭が送られてきている。担当者は「人間の赤ちゃんもコイと同じような感覚で襲ってくる。早く手立てを打たないと非常に危険だ」と話す。アライグマは有害鳥獣で駆除の対象になっているが、被害が発生しなければ捕獲できず、踏み込んだ法整備が必要だ。
※ ハクビシンが大磯のほぼ全域で観察されている。いつの時期に入ったか記録はないが、最初はペットとして持ち込まれたといわれる。体長はタヌキ大で雑食性だが、ビワやミカンなどの果物を好んで食する。ハウスミカンのビニールハウスによく侵入し、食害する。 民家を好み屋根裏に巣を作る。どちらかといえばタヌキに似た性質だ。タヌキ同様、一定の箇所に排せつする「ためぐそ」の習性があり、フンにウジがわいて天井裏から落ちてくる生活被害も出ている。県内では1963年に初めて捕獲された。大磯町では85年に発見され、現在は全町的な分布の広がりが見られる。 大磯町郷土資料館学芸員、北水慶一氏は「15年前はタヌキが多かったが、いまはハクビシンが多い」という。すでに勢力図が塗り替えられている。大磯丘陵には現在、ハクビシンのほかイタチ、野ウサギ、タヌキ、ムササビの5種類が見られる。ムササビは丘陵地の神社や集落で観察することができたが、開発で姿を消し、鷹取山の山中で確認されるのみとなった。ニホンアナグマ、キツネも分布の可能性があるが、確認はされていない。
※ 北米産のブルーギルの幼魚が茅ケ崎の小出川で相次いで発見された。繁殖力はブラックバス以上に強く、幼魚を一網打尽的に捕食するなど、どう猛な魚として知られる。体長は成長すると30aにもなる。湖や川の止水域に生息するブラックバスと違い、かなり速い流れの川でも生息できる順応性のある外来種だ。卵は非常に固く、他の魚が捕食できなため卵のふ化率が高く、増大していく危険性がある。
茅ケ崎では昨年、一昨年と3匹の幼魚が相次いで発見された。活動する会のメンバー、森上義孝氏(ネイチャー・アーティスト)は「幼魚が見つかるというのは親魚がいる。湘南は北米の温度条件と合っているので、生息しやすい環境にある。増加すれば生態系が破壊される」と述べ、早期の駆除を訴える。 森上氏はまた、新潟の中学生がブラックバスが捕食したエサを調べたことを紹介した。「体内には小魚はなく、ヤゴ、ゲンゴロウといった昆虫が入っていた。中には共食されたブラックバスが体内にあった」とブラックバスのどう猛さを語る。
ブルーギルはブラックバス以上ににどう猛さがあり、ブルーギルを川に放すと、あらゆるものを食いつぶすという。しかもブルーギルは悪条件下の川でも生息できる強さを持っており、同氏は「増えると非常に危険だ」と訴える。 昭和30年後半から40年にかけて水田に相当の農薬が撒かれた。その水田の農薬が川に流れ込んで、一時、タニシが絶滅の危機に追い込まれた。川の魚も減った。そしていま外来種が入り込み、地域の川、湖は致命的な状況になっている。
大磯西小磯の磯の池にはブルーギルが生息し、釣り人は「よく釣れる」といっている。ブラックバスも生息し、体長50aのものが釣れたこともある。94年に発見されている。秦野の震生湖にもブラックバスとブルーギルは生息する。ブラックバスは初め芦ノ湖に放流されたが、その後、全国各地で密放流がされ、各地で食害が起こっている。 ブラックバスはすでに相模川でも確認されいる。流れのゆるい浅場で産卵し、数を増やしているという。川エビやフナなどを捕食しており、また、産卵のため4〜5月に川をそ上するアユを捕食する。
※ アメリカザリガニが水田に被害を出している。田んぼに穴を開け、水を抜いてしまう。稲をハサミで切ったりヤゴを食べてしまうのだ。大正時代に鎌倉に入れられたのが最初で、ムシガエルのエサとして入れられたという。 繁殖力が強いうえ人がどんどん放したたためさらに分布が広がって増えた。子どもには大人気だ。 ニホンザリガニは元々湘南地域にはおらず、生息地は東北以北の地方。アメリカザリガニはどんな水域でも生息できるが、ニホンザリガニは冷たい水流のところでしか生息できず、太平洋側の暖かい地域では生息できないという。
※ 動物や魚が生きていける面積の範囲は決まっている。そこに外来種が入ってくれば、当然、そこにいたものが追い出されるか、死滅する。エサの量は変化しないので、繁殖力の強い外来種が在来種に置き換わってしまう。このまま放置しておけば、外来種だけになってしまう恐れがあり、生態系が一変する。地域は外来種の侵入によって生態系のバランスがすでに崩れだしており、早期の手立てが必要だ。
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