准看護婦・士制度について
――看護協会は准看護婦・士の養成停止を主張し、医師会はそれに反対しています。この問題は、このまま並行線をたどるのでしょうか。
「当時の厚生省が日本医師会、日本看護協会などの参加を求めてつくった准看護婦問題調査検討会の中で准看の養成を停止しようということで、医師会との合意はあったんですが、その後、医師会が准看制度を存続する、ということになり、以来、並行線をたどったままです」
――地元医師会に所属する医師に聞いたところ、看護協会の主張は「少し暴論ではないか」と言ってますが。
「現代は少子高齢化の社会で、働く年代が少なくなっています。で、今は中学を卒業して、すぐ働く人はほとんどいません。准看でも中卒の人は少ないです。今は高卒の人が多くなっています。その人たちが、准看護学校で二年間の教育を受け、もう一段階上の看護学校の試験を受けて二年間の看護教育を受けて正看護婦になるコースをたどる人も少なくありません。それでも、これだけ高度化している医療技術に追(つ)いて行くには、大学の教育レベルぐらいの実力がないと対処していけません。それぐらい現代の医療技術は高度化しているんです。それに看護婦は一〇〇%患者、つまり人と対応するわけですから、その患者さんたちの学歴だって上がっています。ですから、これからは正看一本に統合させいく必要があります」
――以前は中卒で准看護学校に入る人が多かったようですが、今は高卒の人たちが多いわけですね。では、どうして直接、看護学校に進まないんですか。
「今、看護学校は多くできていますが、入るには倍率が高く狭き門なんです。看護婦になりたくて、看護学校の試験を受けて、落ちた人が准看護学校に行っているようです。また今は、世の中が就職難の時代で、四年生大学を卒業した人も准看護学校に入学してくるケースも増えています。この一〜二年の傾向です」
――開業医が雇い入れたた人に奨学金を出し午前中は診療所で働き、午後は准看護学校に通わせるといったことがあるようですが。
「ただ、今は准看護学校のカリキュラムの時間が改正されて、一四年度からはカリキュラムの時間数が多くなります。午前中に仕事をして午後から授業を受けるんではちょっと無理でないでしょうか。カリキュラムはこれまで二年間で一、五〇〇時間だったものが、一四年度からは一、八九〇時間になることが国の方針で決まりましたので、働きながら学校に通うというのは、かなり厳しくなると思います」
――一、八九〇時間のカリキュラムで十分足りるんですか。
「一、八九〇時間では、とてもじゃないですけど資質の向上はできません。看護婦が患者さんを指導する場合、それなりの教育を受けていなければ、患者指導はできません。それに現代の医療はかなり進歩しています。医療機器一つ使うにもそれなりの勉強が必要なんです」
――これまで全国で起きた看護婦の医療事故は准看護婦でなく、正看護婦と認識しておりますが。
「それは正看護婦の絶対数が多いからです。それに大きな病院で働いているのは、ほとんど正看護婦ですから」
――准看と正看の仕事の内容はどう違うのですか。
「仕事に関してはたいして変わりませんが、准看は自分の意思で仕事ができる範囲が少ないです。医師、正看の指導のもとで動きます。帽子に正・准の区別をしている病院もありますが、ほとんどの病院では区別しておりません。准看は法律的にも正看の指示のもとで動きます。独自の考えで動くということはできません」
――看護協会が主張する准看養成停止の一番の理由は。
「准看という立場は、医師あるいは正看の指示のもとで動きます。だから立場としてはかなり厳しいものがありますし、辛い立場にもあります。そういう辛い立場の人をつくるべきではない、と思っているからです」
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准看護婦・士の養成停止問題が取り沙汰されている。養成停止を主張する看護協会に対し、医師会は存続を決め込んでおり、問題は先送りになったまま並行線をたどっている。中学を卒業し、准看護学校で二年間の教育を受けて准看護婦・士の資格を取得する昔とは違い、現在は高校卒業者が3年コースの看護学校に直接入ったり、また、准看護学校に入って2年間の教育を受け、正看護学校に進学して正看の資格を得るというコースが多い中で、医療界では准看護婦・士の養成停止の議論が延々とされているのだ。地域の開業医の医師らは、看護婦の確保が難しいことから、准看護婦・士の養成停止には反論している。今後この問題はどうなるのか、地域の医師、准看護婦、県看護協会など医療従事者を取材した。
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県看護協会によると、准看護婦・士制度が始まったのは昭和26年。当時は女子の高校進学率は20%台と低く、中学を卒業して働く女子が多かった。看護婦不足で悩む国は、急きょ、准看制度をつくり、2年間の看護教育を受けて都道府県の試験に合格すれば、准看護婦・士の資格が取れる仕組みにした。しかし、この制度は「当分の間」の暫定的に整備された制度だった。だが、准看制度は今日まで延々と続き、制度廃止に向けた動きはなかった。
ただ、最近になって医療技術の高度化、厳しい環境下にある医療現場での対処の難しさから、制度停止の声が次第に強くなり、日本看護協会は「養成停止」を主張した。だが、日本医師会は反対の異を唱え、存続させる報告書を平成8年にまとめた。それ以来、この問題はタナ上げにされている。とくに開業医からは「地域医療の崩壊につながる」とし、制度の存続を強く望んだ。看護婦・士不足に悩む開業医にとって、准看護婦・士の「養成停止」は診療所の経営にも大きく左右するからだ。
県医療整備課によると、准看護学校の入学時の学歴は、高卒者が圧倒的に多く65%、次いで中卒者の26%が続く。年齢も17〜19歳が圧倒的に多く、次いで17歳未満、20〜24歳と続く。最近の傾向として就職難の大卒女子が准看護学校に入学してくるケースも増えているという。「手に職を付けたい」人が入学してくるケースだ。ただ、これらの人は鍼灸や理学医療分野を目指す、といった人が多く、看護職を一生全うするという人は少ないというのが県の見解だ。
県内の病院・診療所で働く准看護婦・士の数は、平成10年12月31日現在の届け出数(2年に1回調査)をみると、1万2,366人。それまで増加傾向にあった准看数は10年で初めて減少に転じた。
湘南地区をみると、10年12月31日現在の平塚市内の病院、診療所に勤務する准看護婦・士は合計で429人(うち准看護士は14人)、大磯は24人(同3人)、二宮は准看護士はおらず、22人の准看護婦の届け出がある。
茅ケ崎は同現在で、准看護婦・士の合計は266人(同15人)、寒川は71人(同3人)。藤沢はで473人(同20人)、秦野は338人(同36人)、伊勢原は135人(同3人)、厚木は416人(同27人)―。
准看護婦の就職者数、就職率とも県全体で徐々に低くなっている。平成2年に1,453人(27%)だったものが10年には861人(20%)に。また病院に就職している准看護婦数は平成6年に9,122人だったものが10年には8,645人に減少、逆に診療所は6年に2,754人だったものが10年には3,098人と増加。いわゆる逆転現象を起こしており、病院を辞めて診療所へ新たに就職するといったことが浮き出ている。
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地域の診療所で働く2人の准看護婦さんを取材した。2人とも厳しい医療現場で働くといった印象はなく、和気あいあいとした雰囲気。
「わたしは中学を卒業して、すぐに准看護学校に入りました。個人の病院で働き、午前中は仕事して午後は准看護学校へ行きました。逆に午前中は学校へ行き、午後、診療所で仕事することもありました」と年配の准看護婦さん。「わたしが准看護学校を卒業したのは、昭和41年か、42年で、そのころは准看護婦がほとんどでした」
若い准看護婦さんは「わたしは高看の学校に行くことも考えましたが、同級生が高看の学校の試験に落ちたんです。で、わたしは准看の学校に入り、卒業したら高看の学校に進むつもりで病院で働きました。寮に入ればそれほどお金もかからず学校には行けます。授業料だって奨学金を病院が出してくれますので、金銭的にラクだろう、と考え、准看護学校に行きました」
「初めは高看の学校に行こうという気持ちはありましたが、高看の学校に進んだ先輩と准看のままで、その病院に残った人と以前、一緒に働いていたんですけど、病院側からすれば高看に進んでもらいたい。でも、高看の資格を得る国家試験に受かったら、その病院をやめざるを得ないんです。だから病院側とすれば、准看の資格だけでいい、残ってくれたほうが、ありがたいという感じなんです。しかし、高看に進む人と進まない人では病院の待遇が違うんです。わたしの場合、病院から奨学金をいただいて学校に行かせてもらっていましたから、2〜3年はお礼奉公するという暗黙の了解がありました。高看に進んでも、また半日しか働いてもらえない、という病院側からの批判みたいなものがあるので、結局、いたたまれなくなり、その病院を辞めて行った先輩もいます」
年配の准看護婦さんは「奨学金をすべて払い戻して、病院を辞めていった人もいます。初めから高看になるつもりで、その奨学金を全部貯めておいて、高看に進みたいので、この奨学金を全部お返しします、と言って辞めて行った人もいます」
若い准看護婦さんに「高看の資格を取るつもりはないのか」と聞くと、「家庭を持って、子どもがいると、なかなかそんな時間は持てない」という。「大きな病院で長く働き続けるには、主人の協力がないと、どうしても働けません」
准看護婦の養成停止の質問は、年配の准看護婦さんは「いずれかは、そうなると思います。准看の資格を取る人も少なくなっているようですから」
「わたしも(准看は)自然になくなると思います。(准看制度を)なくそうと何十年もかかっていますし、自然になくなっていくものだと思います」若い准看護婦さんは准看の″自然減″を強調した。
地域の医師は「患者をケアするのは正看でも准看でも変わりはないし、差別もない。しかし、資格を持っているか、持っていないかで変わってくる」と、准看問題の根深さに、憂慮した表情をみせた。
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厚生労働省は、准看護婦の資質を向上させるため、現行の1,500時間(2年間の履修時間)のカリキュラムを改正し、14年度からは1,890時間にすることを決め、実施する。さらに正看への過程に進めず長い間、准看護婦として働いている人にも、国家試験が受けられるようなシステムづくりをする計画だ。就業経験10年以上であれば、1年間のカリキュラム(実習は免除)で国家試験が受けられる。実施については未定だ。
同省看護課に准看護婦・士の養成停止について聞いた。「現在、全国で40万人いるので、調整は難しい。具体的な解決の方向性が出せないでいる。しかし、准看護婦、准看護士の質の向上ということで、カリキュラムの時間数を増やして質の向上をはかりたい。准看制度の廃止ということがうわさに上っているが、現時点ではそのようなことはない。しかし、問題としては認識している」と、准看廃止を強く否定しなかった。
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