中小企業向けの特別融資保証制度

同保証協会によると、九八年一〇月から始まった特別保証制度の中で、これまで金融機関に代弁(肩代わり)した金額は全体で二二〇億円。  支所別では、平塚支所が、九九年四月から今年一〇月までに合計九三件、一六億三、〇〇〇万円の焦げ付き。藤沢支所は、同じ期間で合計一二四件、三〇億四、五〇〇万円の焦げ付きを出している。これからも倒産企業が増えれば、さらに同保証協会の代弁は増えることになる。  同保証協会では「一〇〇%回収は無理だ」とし、回収に不安をのぞかせるが、「安易に保証しているとは思っていない」と主張する。  平塚支所でも「現実に融資を受けて助かった中小業者はいる。しかし、書類さえ整えば、だれでも簡単に融資を受けられた。書類審査の甘さはあった」ことを認める。藤沢支所は「それは結果論であり、(審査が)甘かったことはない。しかし、焦げ付きの回収には、相当に時間がかかる」と回収の難しさを訴える。  平塚支所の管轄は、平塚・秦野・伊勢原・大磯・二宮の三市二町。その保証承諾額は、九八年度が四二六億四、八〇〇万円(保証件数一、六一三)、九九年度は二七三億六、三〇〇万円(同一、五五九)、本年度(四月―一〇月)は、六〇億九、五〇〇万円(同四二四)。  藤沢支所は、藤沢・茅ケ崎・大和・綾瀬・寒川の四市一町が管轄で、保証承諾額は、九八年度が七九七億三、五〇〇万円(同三、三九四)、九九年度は四三三億七、六〇〇万円(同二、四七一)、本年度(四月―一〇月まで)は一〇九億三、九〇〇万円(同五四)。  県内八カ所の支所の保証承諾額は、一〇年度当初に比べるて減少しているが、焦げ付き(不良債権)件数は増加している。藤沢支所は本年度の保証承諾件数五四件に対し、焦げ付きは一〇七件で、約二倍にも膨んでいる。八支所は焦げ付きに濃淡の差こそあれ、いずれも件数は増大している。  今回の制度を利用した業種で最も多いのは建設業。焦げ付きも全業種の中でトップだ。平塚支所管内では四七・七%、藤沢支所も全体の三〇%前後が建設業だという。県全体でも建設業が四〇%以上を占めていおり、卸、小売業の順―と続いている。  建設業は全業種の中で現在、最も景気が悪く、各企業とも業績がなかなか伸びていかない。とくに中小建設業は、頼みの公共事業が激減しており、死活問題にまで発展している。  帝国データバンク横浜支店によると、昨年は特別保証制度で運転資金が入ったため、県内の建設業の倒産は減少したが、今年は一月―一〇月で、すでに三〇〇件近くが倒産に追い込まれている。  全業種の倒産件数も、昨年は特別保証制度の拡大で倒産件数は七〇〇件を割ったが、今年はすでに五六一件(一〇月末現在)と、七〇〇件超えるのは間違いない、としている。 これからも焦げ付きは「二倍は増えるだろう」と見通しており、同保証協会の対応の甘さを指摘した。  「(当初は)中小業者が協会の窓口に殺到して、協会の職員が二、三人で何万件の書類を処理していた。めくら版を押していたようなものだ。焦げ付きが出るのは当たり前だ」   ※  同保証協会によると、当初から焦げ付きは予測できた、という。政府も一〇%の焦げ付きを予測しており、傘下の保証協会もそれに準じて保証してきた。  ある経済関係者は「融資したお金が戻って来ないのであれば、保証の審査基準を厳しくすればよかった。それをしなかったために、二二〇億円という焦げ付きが出てしまった。一〇〇%回収できればいいが、不可能に近いんだから、どうしようもない」と審査の甘さを批判した。  しかし、県信用保証協会では「(われわれは)安易に保証しているとは思ってない。特別保証制度の趣旨に則って、チェックするものはきちっとチェックしている。極端な言い方をすれば、(審査基準を)いくらでも絞ることはできるし、厳しくもできる。しかし、そうすると、保証協会という存在の意義がない。金融機関と同じような審査をし、一〇〇%回収できるのあれば、保証協会なんて必要はない。金融機関では融資を受けにくいという人たちが保証協会に来て、融資を受けた。そこに保証協会の存在の意義があるのでは」  これに対し、地域の金融機関は「健全な企業より、かなりひっ迫した事業所に貸し付けたことが原因で、焦げ付きが多くなった。結果的には不良債権になってしまった」と反論する。  地方銀行は「銀行としては、通常の審査を行っている。審査基準に達しない事業者や借入金が延滞中というケースもあって、融資の判断に迷ったこともあるのは事実だ。しかし、政府が拡大策を取り、だれでもが融資を受けられるようスタートした。そこで銀行がまた審査を非常に厳しくしたら、大きな反論が出る。だから銀行としては、通常の審査をして保証協会のほうに書類を回した」  これまで県保証協会全体の焦げ付きは二二〇億円。しかも、回収が難しくなっている。全額回収できなければ、われわれの税金で穴埋めをしなければならず、個人負担がそれだけ重くなるのだ。  確かに、この保証制度で中小業者は救われた部分はあった。しかし、ここまで焦げ付きが増大するとは、保証協会でも予測はできなかった、という。  「(焦げ付きは)一〇〇%回収はできない。一〇〇%の中には、かならず自己破産した企業があるので、法的に回収ができなくなっている。しかし、銀行から借り入れることのできない人たちが、今回の制度で助かったという人は多い。焦げ付きだけが取りざたにされているが、助かったという人は数多くいる。そういうところを評価してもらいたい」  同保証協会では現在、四〇〜四五人体制で、焦げ付きの回収に奔走している。職員を配置転換させ、増員させて、回収に当たっているという。  民間企業であれば、貸したお金は、かならず回収する。回収しなければ、自分の会社が経営難に陥ってしまう。しかし、公的機関は、焦げ付きを見越して融資をする。民間ではまず考えられないことだ。「審査基準」が甘いと指摘されても仕方のないことなのだ。  現実には巨額な不良債権が残り、塩漬けにされようとしいている。個人のものであれば、市民の腹は痛まないが、血税を使われているというところに、問題があるのだ。  同保証協会では「この制度が来年三月に終了しても(焦げ付きの)回収は五年、一〇年と続けていく」としているが、時が経てば経つほど、回収は難しくなるのは必至だ。  同保証協会によると、今回の特別保証制度の保証額は七、〇〇〇億円、通常の一般の保証を含めると、保証は一兆七、〇〇〇億円の保証枠があるという。  特別保証制度で政府のいう焦げ付き予測が一〇%だとすれば、県の場合、七〇〇億円までが焦げ付きが許されることになる。現在、県保証協会全体の焦げ付きは、二二〇億円だから、まだ余裕があるということなのか。  同保証協会では「(焦げ付きは)できるだけ減らしたい」というが、現実には、倒産件数が増えているため、かなり難しいというのが周辺の見方だ。 今回の特別保証制度を利用した中小業者は、大多数が一般の保証を利用している。一般の保証でも実績があり、さらに政府が今回の特別保証制度の審査要件を緩和したため、実績のある会社だけでなく、新規でも融資を受けることができた。そして焦げ付きという大きな不良債権を発生させてしまったのだ。  保証協会は「確かに今回の特別保証制度の審査基準は『甘い』といわれてきた。しかし、一般の保証では、ほとんどが実績のある会社ばかりだ。われわれはその実績、内容を把握している。一般の保証を利用している大多数の企業は実績があり、だから今回の制度も利用されたのだ」  「会社の内容を把握していれば、焦げ付きの回収はできるはずでは」の記者の質問には「破産申告している場合もある」とした。裁判所に破産申し立てをすれば、法的には回収できないのだ。「この会社は資金に苦しんでいるな、ということが分かる。しかし、苦しんでいるから、保証するんだ」と、保証協会は主張するが、どこか釈然としない。  通産省金融課では「銀行の貸し渋りが根底にあったので中小企業に資金が回らなかった。だから、一般の保証より、審査要件を緩和した。焦げ付いたものを、銀行に支払った代弁済率は(国全体で)一・八%、一〇%の代弁を予測していたので、現状としては低いのではないか。焦げ付きについては、これからも粘り強く回収していく」とした。しかし、全国の保証協会でこれまでの二年間で約四、〇〇〇億円が焦げ付き、全国の保証協会が肩代わりに返済している。この現実はどう受け止めればいいのか。   ※  地域の経済関係者や一般の人はどうみているのか。  ある経済関係者は「実感としては(審査が)甘かったんじゃないだろうか。当初と今の利用状況を比較すれば今のほうが審査が厳しく感じる。でも、今の(審査)が通常なんだと思う。政府は銀行からの貸し渋りを受けた中小企業に融資を拡大したが、貸し出す現場とは明らかに温度差があるようだ」 別の経済関係者は「中小企業を何とか立ち直らせるような体制でやっていたようだが…。保証協会もきちっと審査して、対応していたと思う。国の方針の中で、別枠を設けて融資拡大をしたが、中身がどうのこうのについては、われわれには分からない」  飲食店経営の男性は「基礎がしっかりしていないからこんなことになる。個人的なものだったらいいが、 大きくなると、大問題になる。(二二〇億円の焦げ付きは)怒ってもしようがないが、頭に来る。国からお金を借りて、焦げ付かせて逃げた人は儲けものだ。マイナスを保証してくれるんだから。こんないい国は他にはないよ」  「(保証協会が)焦げ付いたものを回収するのは当たり前の行為だが、借りた本人には何の意味もない。国がこういうことをして、中小企業が生きる訳がない。上(国)から水が流され、水を溜め込み、そして川に流した。しかし、その川に何の意味があるのか。国民から集めた税金を、何にでも使うというのは、切腹ものだ」  公務員の女性は「何でも政府を頼りにするのはいけない。国の経済政策は、みんな無責任だと思う。(特別保証制度は)中小企業にとっては渡りに船だった。しかし、今となっては貸す国のほうが悪い。焦げ付いた業者も、責任を取らなくなっている。日本全体で二〇兆円という公的資金で(中小業者を)救うべきではない。国が救わなければ、失業者は出るが、どこまでが国の責任なのか、民間の責任なのかは分からないが、今は国も民間も責任を取ろうとはしない」  「国の政策は場当たり的で、目先のことだけしか考えていない。一〇年、二〇年先を見通してほしい。(中小業者の)不満を解消するため審査を甘くし、税金をぽんぽんと出したことが、二二〇億円という大きな焦げ付きが出てしまった。税金は本来、弱い人たちのために使わなければならないのに、企業責任がなぜ問われないのか。企業は大小を問わず、社会的な責任を果たしてもらいたい」 ※  県信用保証協会平塚支所に県議会議員の秘書が、融資保証の「口利き」をしていたことが明らかになった。同支部に融資保証の「口利き」したのは今年に入ってのことだ。  「口利き」をした秘書は二人。一人は業者の過去の実績が審査基準に満たなかったため、平塚支所は融資保証を断ったという。  同支所では「保証審査基準に達していないのに、強引なやり方で保証させる、という強いものではなかった」としているが、口利きは事実であり、今後、波紋を呼びそうだ。県議名は「言えない」といっている。  保証協会にまつわる「口利き」事件は最近、頻繁に起きている。先日、東京都議の秘書が「口利き」をし、出資法(仲介手数料の制限)違反で逮捕されたばかりだ。さらに最近は、衆院議員まで問題が波及しており、「口利き政治」が日常化していることが改めて示された。  県内では、まだ県議や公設秘書は逮捕されていないが、民間人二人が法定手数料を上回る七〇〇万円を建築会社から受け取って逮捕されている。  政治家や公設秘書が「口利き」の見返りに報酬を得ることを禁止する「あっせん利得処罰法案」の国会審議が続く中での事件だけに政治の世界だけでなく、全体が「甘え」の構造にあるようだ。

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