中学校の部活動  地域の連携

 中学校の部活動は、近年大きな困難に直面している。生徒数の減少により、教員数も減少した。新規採用がないため、中学校教員の平均年齢は40歳を越え、高齢化しつつある。スポーツなどの指導ができる顧問がいないために、廃部に追い込まれる部が増加している。中学校生活で部活の占める比重が大きいにも関わらず、教育課程外の教師の自主的な活動というあいまいな位置づけになっていることに無理はないのか。学校だけでは負いきれなくなっている活動を、学校外の指導者が支えている例を紹介し、さらにこれからの部活動のあり方について、様々な意見を集めてみた。

金旭中 全国大会へ出場

男子団体ベスト16の快挙

 平塚市広川にある金旭中学校剣道部は、今月8月の全国大会に出場した。  春の大会で勝ち進み、7月の県大会で優勝した男子団体と女子個人の小堀優加さんが、8月22〜24日に鹿児島県で開かれた全国大会に駒を進めた。男子は48チーム中ベスト16位に入り、小堀さんは1年生でありながら、2回戦まで勝ち進んだ。
 県内で最も実力のある強豪校となったわけだが、実は稽古場となている学校の体育館を、放課後剣道部が使用できるのは週に1日しかない。部員も体格の小柄な生徒が多く、竹刀での激しい打ち合いをやめ、面をはずすと、まだあどけない笑顔が現われる。
 決して条件に恵まれているとは言えないこの部が強くなったのは、顧問の金子博勝先生と地域の剣友会会長の遠藤一夫コーチの指導、部員の父母の協力など、学校と地域の連携によるものである。

  地元の会に所属

 遠藤さんが会長を務める剣友会は、小・中学生ら子どもが60人、大人が40人ほど所属している。20年くらい前は剣道の人気が高く、どこの道場でも100人を越していたが、ひと頃のサッカーブームなどで、剣道をやる子どもが減った中で、これほどの大人数を抱える道場は珍しい。遠藤さんに剣友会をつくたきっかけについて聞いた。
 「剣道をやる子どもは、大抵小学生の頃から家の近くの道場に入会しており、過去にも金旭中には強い生徒がいたが、所属する道場がそれぞれ別で、練習方法や親の考え方などをまとめることが難しかった。それを剣友会で一まとめにして、現在は部員全員がこの会に所属しており、中学の部としての練習が週に1回でも、それ以外のところでまとまって練習ができる」
 練習は現在、金旭中学校の体育館で、月曜日と金曜日の夜に行っている。また、火曜日と木曜日は他の道場を借り、土曜日は個人で場所を借りて指導している。日曜日は部員の父親が指導者として協力しており、結局中学生の部員は1週間毎日、何かの形で練習を継続している。

学内練習は週1回

「剣友会」での稽古が土台

   剣道部の部員にとって、体育館は道場である。出入りの際は必ず、道場に向かって礼をする。床に一列に並んで座り、面を前に置き、黙想と礼から練習が始まる。並び方も袴順で決まっている。この日も金子先生が練習態度について厳しい言葉を最初に口にした。生徒は正座して背筋を伸ばし、顔を前に上げて話を聞いている。
 休憩時に声をかけると、女子部員も「あざだらけになるが、相手を倒したときが楽しい」と、生徒たちの表情は明るい。
 「今は若い子を厳しく叱ってくれる場がほとんどなく、そういうものを求めている子どももいる」と、金子先生は言う。
 面をつけて打ち合いを始めると、竹刀の音がビシビシと響きわたる。かなりの運動量がある上に、打たれて痛い思いをすることへの恐怖もあるだろう。
 やがて遠藤さんが到着すると、面をはずして並び、再び礼が繰り返される。背筋を伸ばして話を聞く時間が、体を休められる時間でもある。遠藤さんは、武道が人間形成に必要なものであると語る。
 「臭いし、痛いし、剣道は武道の中でも運動量が多い。これを克服した子どもは何をやっても負けない」

指導者不足の打開に

校外の協力が不可欠

 金子先生に、会に入らず中学から剣道を始めて、部活だけでやっている生徒がいるかどうかをたずねた。
 「剣友会に入っていない子は、ついていけなくてやめてしまう。中学三年間といっても、3年の半ばで引退するので、正味2年4カ月ほどしかなく、週に1回の部活だけの練習ではどうにもならない。中学から始めても、剣友会に入った子は続いており、今日練習している中でも、半分は中学から始めた子だ」
 剣道の腕の評価には級と段があり、今年全国大会に行った生徒たちは、初段や二段を持っている。中学1年生で初段、3年までに二段は取れ、それが子どもには励みになるのだが、学校の部活だけでは到底そこまではいかない。
 遠藤さんは七段の腕を持っているが、金子先生も三段の有段者で、自身でも剣道の指導をすることができる。だが、剣道ができる先生の数は減ってきていると、金子先生は語る。
 「15年ほど前までは、学校の先生で試合の審判がやれたが、今は先生だけではやれず、剣道連盟の人の力を借りている。武道は怪我などの危険が伴うため、経験のない素人が顧問になっても、指導することが難しい」
 遠藤さんは、先生や学校があきらめずにやり続けてほしいと願っている。  「廃部になってしまう学校が増えているが、1年生を取らないと言った学校の校長と直談判して、廃部をやめさせ、別の学校には新たに剣道部をつくらせてしまった。その地域の小学生に剣道をやってきた子が何人もいて、中学に受け皿がないと、やめなければならず、子どもがかわいそうだった。金子先生のような先生がやってくれているから自分も続けられるわけで、先生がやってくれなければ何もできない」
 遠藤さんは自動車修理工場の社長をしており、仕事も非常に忙しい。それでも続けられるのは「子どもたちがかわいいから」と目を細める。

  (写真)県下一の強豪として全国大会出場を果たした金旭中学校・剣道部。この日は平塚市総合体育館武道場夜7時過ぎから激しい稽古がはじまった。学校外での稽古の方がむしろ多い。 

生徒数・教員数・部活数減少

増加する外部指導者

   平塚市教育委員会では、中学の部活動に学校外部の指導者を派遣する試みを、1994年度から開始した。当初、市内15校中8校に16人を派遣していたが、年を追うごとに増加し、今年度は14校に51人を派遣している。そのうち45人が運動部への派遣で、文化部に比べて圧倒的に数が多い。
 94年度から今年度までの部活動の加入人数の推移を見ると、運動部への加入者は69.5%から62.6%に減っているのに対し、文化部は15.7%から20.3%に増えている。
 文化部が以前に比べて活発になっているわけではないのだが、たとえばイラスト部やマルチメディア部など、昔はなかったジャンルの部もできており、その分野が得意な教員が一人で指導している状況が伝わってくる。
 文化部に入っている6人の外部指導者は、各パートの指導が難しいブラスバンド部だけである。
 運動部に関しては、かつてはどこの学校にもあった、野球、サッカー、バスケット、バレーなどの人気種目でさえ欠けている学校がある。教育委員会の指導室では、それについて、次のように語った。
 「初めての子が中学校に入学すると、自分の中学時代とだぶらせて、戸惑いを感じる親が多い。自分の頃にはこういう部活があったのに、今はなぜないのかといった疑問が寄せられる。全国的に少子化が進み、学校規模が小さくなってきており、教員の数も減っている。その分、面倒をみられる部活数も減少している。昔も熱心な先生は一部だったのだが、先生の絶対数が多かったので、みんながやっているように見えた。今は学校だけでは社会の要望に応えきれない苦しさがある。
 1985年には平塚市内全体で11,977人いた中学生は、今年度には7,568人と大きく減少した。それに伴って教員数も減少してきているが、社会の複雑化に伴い、生徒が希望するジャンルはむしろ細分化して増えてきている。
 かつて日本のスポーツはすべて学校が背負ってきたという歴史もあり、学校教育としてみんなで支えようという意識は強い。だが、それがあまりにも強すぎると、長時間働けない職員が居づらくなってしまうというジレンマがある」

学校だけでは負いきれない・・・

 職員の労働という観点から、中地区教職員組合の書記長に話を聞いた。
 「部活動は教育課程外なので、法的根拠が一切なく、やる人や学校によって考え方がバラバラになっている。希望者が顧問を持つ学校もあれば、全員が顧問にならなければならない学校もある。勤務時間内で五時までやる人もいれば、7時までやっていたり、土日勤務で家庭を犠牲にしてもやる人もいる。
 平日は5時以降2時間の勤務で600円の手当て、土日は1日につき1,200円しか出ないのでボランティアのようだ。  一方で部活には生徒指導の効果もあり、社会体育への移行もすぐには難しい。意義は感じているが、やる以上はしっかりした保証がほしい」

  重すぎる労働

   鎌倉市のある中学教師は部活が直面している現実について話した。
 「好きでやっている人は土日も休まないことにそれほど抵抗がない。だが、顧問の教師が異動した後、引き受ける人がいなくて、仕方なく引き受けた部活のために、土日もやらなければいけないというのは一番きつい。外部指導者には予算の裏付けがなく、せいぜい1校で2〜3の部にしか派遣されない。
 自分も30代後半までは10種類くらいの種目をやったが、今はほとんど勤務時間内で帰るようにしている。生徒は半分くらいはやっててよかったと言うが、3〜4割は部活に不満を持っている。生徒と顧問と外部指導者と、それぞれどの程度厳しくやりたいのかの希望が違っており、三つ巴でもめてしまう」
 藤沢市のある中学教師は部活動の現状に疑問を投げかけた。
 「生徒が減り、教師も減り、新採がなく、教師は高齢化している。持てない部を持たざるを得ない状況は非常に負担だ。自分は今年初めて野球部を持ったが練習方法も分からない。少年野球チームで小学生のときからハードな練習をしてきている子にしてみれば、中学にきちんとした指導者がいないということは不満で、顧問がきつい思いをする。
 市で若干の外部コーチを派遣してくれるが、うちの部では今年1年間に14日分の手当てしかなく、それを超える分は無償で来てくれている。
 教師よりも外部コーチの方が長時間激しい練習をやりたがる傾向が強く、将来的に学校で部活をやっていくのは難しいが、学校から離れて社会体育に移行すると、厳しくやりすぎる傾向が強くなるのではないだろうか。
 中学の部活は、その中学に通う生徒が誰でも参加できるのが原則で、勝て勝てと言えば、知らないうちに振り落としてしまう。体の強い子もいれば弱い子もいる。
 半分遊びでいい、そこそこにやろうということが許されなくなっている。生徒も多数の者は厳しさを楽しんでおり、体が弱くてどうしてもついていけない子は、『トロい』とばかにされる。『トロくたっていいじゃないか』という話にはならない。喫煙や万引きなどの非行で問題を起こす子がいると、部活をやめさせてしまう。そういう子を抱え込むのが本当のはずだ。部活での人間関係のきつさから、不登校になった子もいる。だが、そういう生徒は少数派なので、正しくないとされてしまう。
 管理職から見ても治外法権なので言えないし、顧問の力が強く、かなり極端なことがあっても、職員の共通の話題にならない。組合も勤務時間の問題などで本来セーブさせる立場なのだが、『そんなこと言うなら組合やめちゃう』と言いだす者もいて、強く出られない。教育委員会は時間外勤務の問題があり、面倒なのでハッキリとした形は取りたがらない。
 中学の部活はもっと軽くなっていいと思う。毎年あるいは学期ごとに、部活を変わってもいいのではないだろうか」

  教師の自由意志による奉仕活動

“顧問”だんだん無理に

 中学校体育連盟(中体連)は、体育系の部活の集まりで、各学校に理事がいて、市の理事会を開いている。藤沢市の中体連の会長は、部活の意義を語った。
 「中学での生徒指導面で、部活の果たしている役割は大きい。今学校から部活がなくなると、学校が荒れてしまうことを先生たちは知っており、困難な状況下でもやってくれている。
 部活を残業とするのは難しく、先生たちの正式な仕事として認めると、労働時間からして相当な額になり、到底払いきれず、明らかに労働基準法違反になってしまう。正式な仕事として予算内に収めると、もとやりたい先生も活動ができなくなるので、やりたい先生も賃金については言えないでいる。
 今は奉仕活動として先生たちの自由意志でやっており、意義は認めているので、多少の補助が出ている。
 先生が顧問をやるのはだんだん無理になってきており、外部指導者が生まれつつある。現在藤沢市では外部指導者は1日3,000円で年に20日分の予算しかなく、実際にはもっと来てくれている。
 綾瀬市では外部指導者を部活振興会がプールしていて、学校から希望があれば派遣している。
 部員と顧問教師の減少から、複数校で一緒に活動する合同部活動をやっているところもあるが、市内大会に出られても、県・関東・全国と勝ち進んだときになかなか認められない。1校だけで一生懸命にやっている学校もあるのに、2校でいい選手が集まったために勝っていく学校があっていいのかという意見もある。
 水泳、柔道、剣道、トランポリン、弓道などを学校の外で習っている子もいて、もっと進めば部活が学校から離れていくことも考えられるが、外で活動している子も、学校の友達とも何かやりたいと、外とは違う種目の部活に入っている場合がある」

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